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相手は驚いたまま目を大きく開けて俺の顔を見ている。
足元に落ちたはずの真っ赤な椿は跡形も無く消えていた。
お互い驚いた顔で見合せ…
ふっと空気が緩んだ。
「こういうことってあるんだな…びっくりした」
頭をかきながら笑う俺に、相手は大きく開けていた目をくしゃりと細め。
「びっくりしたのはこっちだ。…君は解るんだね、きっと無意識に」
椿の木に恋されたんだ、と。
嘘か本当か、冗談ぽく呟く相手の真っ白な顔と手を見て。
「とりあえず飯食おう。腹へった。えー、椿は何年だ?」
ガシリと首根っこを掴み、雪をはたき落とすと校舎へ引きずるように歩き出す。
「ちょ…っ。おい!草間だ!同じクラスだよ、確か!」
「うん、知ってた。面白いから言ってみただけだ」
唖然とした表情で静かになった相手を引っぱりながら構わず歩き出す。
話したことは無く、静かで大人っぽい奴だと勝手に思っていたんだけど。
弟みたいに喚きながら暴れる姿に思わず笑いがこみ上げた。
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