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5年か……待った方よね?
待ってます、なんて、拓未は脅しをかけられたって、お金を積まれたって、絶対に言わない。
待つっていうのがどんなに根気がいるか、苦しくなるか、切なくなるか、不安になるか、迷いが生じるか、私はこの5年間、嫌ってほど味わった。だから新條君が待ってくれるっていうなら、なるべく待たせたくない。待つ辛さが分かるからこそ、同じ想いはさせたくない。
「という訳だから、そろそろいい加減に決めて」
仕事帰りに会社近くのサブウェイに拓未を呼び出して、洗いざらいぶちまけた。拓未はスマホで仕事仲間とラインでやり取りしながら、えびアボガドサンドをパクついている。
「食べるかラインやるか、どっちかにしなさいよ。っていうか、まずは私の話に集中しなさいよ!」
「何を決めるんだ?」
「私の話聞いてた? 新條君に中途半端な想いをさせたくないから、ここら辺で私達の今後をハッキリ決めて、って言ってるの」
「今後って言うのは、具体的に何年後の話だ?」
「年単位の話じゃなくて! 将来の話をしてるの! 私達の関係に未来はあるのないの!?って聞いてるの!」
バンバン!と机を叩いて訴えた。拓未は口の中の食べ物を珈琲で流し込むと、徐に立ち上がった。
「何処に行くのよ?」
「会社に戻る」
「何ですって?」
「まだ仕事が終わってないんだ。飯を食ってくるって言って出てきたから、そろそろ戻らないと同僚に殴られる」
「拓未、私の話聞いてた?! 私は今、重大な話を」
「待ち合わせ場所は観覧車の天辺だ」
「していて……って、は?」
「今度の日曜だ。デートするぞ。葛西臨海公園の観覧車の天辺に、夜7時だ」
なにその場所指定。斬新過ぎて、かえって頭に何も浮かばない。
「観覧車のてっぺんって何よ?」
「天辺は天辺だ」
「普通、駅とか公園の入口とかで待ち合わせしない? 大体、夜の7時って、」
「遅れるなよ」
「何でそんなに遅い……って、拓未っ!? 話はまだ終わってないわよっ!!」
私が鞄とコートを手に店を出た時には、拓未は既に雑踏の中に消えていた。追う気が失せた。脱力して帰った。
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