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それは、とある朝のこと。
一階に降りて、ふと何気なくダイニングテーブルの上を見やった時にそれを見つけた。
新聞やチラシに紛れて、定形の茶封筒が挟まっていた。
その表面の筆跡を一目見るや、その送り主が誰か分かった。
こんな暴れん坊な字を書く主は一人しか思い当たらない。
そしてここにこれが無造作に置かれているということは母さんはまだ気付いてな…
「おはよう、未稀(みけ)」
その時、コンロの前に立つ母さんが振り返った。
私はかるた名人もかくやというスピードでシュバッとその封筒だけを抜き取り、背中に隠した。
「あら、どうしたの?」
「…す、スタグフレーションって何だろうね?さっぱり意味わかんないよねぇ」
新聞の見出しを適当に指差し、誤魔化す。
……危ない危ない。
母さんにこの手紙が渡れば可燃ゴミになること必至だ。
なぜなら、この手紙の送り主は――私の兄さんだからだ。
兄さんの名前は家族や親戚間では絶対の禁句。
両親に至っては「息子は神隠しにあって消失しました」と真顔で答えるほどだった。
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