第一章 四つ辻の美笛(よつつじのびてき)

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 ある平和な国に、たいへん信心深いお姫さまがいました。  教会からの帰り道、お姫さまがお母さんへのお土産に、お花を摘んでいたときのことです。  どこからか素晴らしい笛の演奏が聞こえてきて、お姫さまはつい、音のする方へと歩いていきました。  こじんまりしたテントに辿り着き、そっと中を覗き見ると、たしかに十人分くらいの笛の音色が聞こえておりましたのに、吹いているのは青年が一人だけです。  お姫さまは拍手をしながら声をかけました。 「なんて素晴らしい演奏なんでしょう。続きをお城で聴かせてくださらないかしら」 「そうですねえ、あなたが僕と結婚してくれるなら、行ってさしあげましょう」  お姫さまは驚きました。  しかしその素敵な演奏を、どうしても、誰かに聴かせたくて仕方がありません。 「いいわ、あなたと結婚します」 「本当に?」 「ええ、神さまに誓って」 「ありがとう。では美しい奥さん、まずは僕たちの家へどうぞ。お見せしたいものがあるんです」  誘われるまま、お姫さまは青年について行きました。  森の奥深くに古びた家が見えてきて、わくわくしながら中へ入ると、黒魔術の本や、大きな壺、呪いに使う妖しい薬がずらりと並んでいます。  お姫さまは怖くなって尋ねました。 「あなたは何なの?」 「そりゃあ、あなたの旦那さんに決まっているでしょう」  高らかに笑った青年の頭からは、にょきにょきと、山羊のような角が生えてきました。  その足は蹄に変わり、お尻からは黒く長い尻尾が生えてきて、下穿きを突き破ります。  青年は、人間の姿に化けた悪魔だったのです。
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