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ある平和な国に、たいへん信心深いお姫さまがいました。
教会からの帰り道、お姫さまがお母さんへのお土産に、お花を摘んでいたときのことです。
どこからか素晴らしい笛の演奏が聞こえてきて、お姫さまはつい、音のする方へと歩いていきました。
こじんまりしたテントに辿り着き、そっと中を覗き見ると、たしかに十人分くらいの笛の音色が聞こえておりましたのに、吹いているのは青年が一人だけです。
お姫さまは拍手をしながら声をかけました。
「なんて素晴らしい演奏なんでしょう。続きをお城で聴かせてくださらないかしら」
「そうですねえ、あなたが僕と結婚してくれるなら、行ってさしあげましょう」
お姫さまは驚きました。
しかしその素敵な演奏を、どうしても、誰かに聴かせたくて仕方がありません。
「いいわ、あなたと結婚します」
「本当に?」
「ええ、神さまに誓って」
「ありがとう。では美しい奥さん、まずは僕たちの家へどうぞ。お見せしたいものがあるんです」
誘われるまま、お姫さまは青年について行きました。
森の奥深くに古びた家が見えてきて、わくわくしながら中へ入ると、黒魔術の本や、大きな壺、呪いに使う妖しい薬がずらりと並んでいます。
お姫さまは怖くなって尋ねました。
「あなたは何なの?」
「そりゃあ、あなたの旦那さんに決まっているでしょう」
高らかに笑った青年の頭からは、にょきにょきと、山羊のような角が生えてきました。
その足は蹄に変わり、お尻からは黒く長い尻尾が生えてきて、下穿きを突き破ります。
青年は、人間の姿に化けた悪魔だったのです。
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