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笑い声と笛の音の鳴り響く家から、お姫さまは走って逃げました。
急いで教会に駆け込もうとしましたが、さっきまでは無かった不思議な柵があり、中に入れません。
「お城に戻ればいいわ」
お城の周りには、いつでも魔除けの〝かがり火〟が焚かれているはずです。
懐かしい灯りが見えてきて、安心したお姫さまはお城へ入ろうとしました。
「森でね、大変なことがあったのよ」
「油断するな、来たぞ!」
なぜか門番に剣を向けられて、お姫さまは慌てて逃げました。
可哀想なことに、途中で三度も転びました。
「どうして誰も助けてくれないの!」
四度目に転んだとき、お姫さまはやっと気がつきました。
かがり火に照らされた自分の黒い影には、曲がりくねった角と、長い尾が生えています。
うまく走れなかったのは、足が蹄になっているからでした。
*
次の日、一匹の悪魔が、教会の前で火あぶりにされました。
焼け跡からは真っ白な煙が立ちのぼり、森の方へ流れていきます。
「やあ、僕の奥さんじゃないか」
その煙を胸一杯に吸い込んで、悪魔はまた、笛を吹きました。
それはとてもとても、美しい音色でした。
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