真夏の君に贈る。

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chapter 1   僕は海の近くの町で一年過ごした事がある。  親の仕事の都合でよく引っ越しをした。だから、友達が出来てもすぐ離ればなれになった。関係を築いてもすぐわかれてしまう。そして、出会いそのものが嫌いになった。社会人になっても人付き合いが悪く、職場に居場所はなかった。そんな嫌気のさしてきた僕の元に一通の手紙が届いた。それはある人の訃報だった。   夏に入り休暇をもらった僕は、その人の墓参りに行く列車の中にいた。閑古鳥が鳴く車内には、親子が一組座っているだけだ。はしゃぐ兄弟を横目で見ながら窓の外を見た。薄暗い車内はどこか怖い雰囲気が漂っていて、車窓からの光がそれを和らげていた。そんな空気が少し寂しくて見た外の景色は、あの遠い日の事を頭の中に浮かび上がらせた。 chapter 2  僕が彼女と出会ったのは高校二年の一学期が、半ばを迎える頃だった。親の転勤で越してきた僕は、今までの’経験'のせいで仲間の輪に入る事を嫌がっていた。あまり愛想もなかった僕に話しかけてくれたのが、川口さんだった。 成績は良い方でクラスの人気者だった川口さんの周りには、いつも友達がいた。そんな彼女が僕には少し眩しくて、遠い存在だった。いつも明るく振舞って、弱いところを見せない彼女の笑顔は、周りを自然と明るくする。
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