真夏の君に贈る。

3/15
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「何見てるの?」  窓の外を見ていた僕に川口さんは話しかけると、僕の前の席の椅子に座った。 「いや、綺麗だなって」 「ああ、ここから見える海はね、この町で一番なの」 「へえ、そうなんだ」 「ねえねえ、名前、加山 祐一君だったよね。前はどんなとこに住んでたの?誕生日は?」  少し面倒くさい。 「ええっと、都会かな。ちょっと中心からは離れてたけど」 「こっちきてみんなと一緒に話そうよ。みんな君に興味津々だよ」 「別にいいよ。まだ海見てたいし」  変だと思われただろうか。 「夕美、何やってんの」 「今行く!それじゃあ、またいつでも声かけてね」  彼女が微笑んだ。すごく綺麗だった。面倒だと思った自分が不意に馬鹿らしくなった。それくらい、綺麗だった。僕は少しの間、彼女の後ろ姿を見送った。   それからは次第に周りとも話すようになった。別れてしまう時の悲しみを忘れた訳では無いけれど、このクラスの人たちはみんなフレンドリーで、話していて楽しかった。   そうこうしていると夏休み直前になった。課題がたっぷりと出されて生徒たちが落胆の声を上げる中、僕はまた海を見ていた。地平線の端が少し下がっていて、地球は本当に丸いんだなあと感じられる。入道雲が海から煙のように立ち昇り、絵になる美しさだ。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!