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……そうよ。
この薬を飲んで、ぶち壊してやるんだ。
震える手で薄紫の液体を飲み込んだ。
あの男の、あのスカシた面を驚愕に変えてやろうと、
―――私は「透明人間」になったのだ。
あの男とは、三流大学の古典文学の准教授「人寄優哉(ヒトヨリユウヤ)」
私は、今や見えなくなってしまっているけど、大学でミスに出ないかって言われるくらいの風貌には少々自信がある。
「椛島風香(カバシマフウカ)」幼い頃から可愛いを売りにそれはそれはちやほやとされて育ちました。
きれいな二重、艶やかなな桜色の唇、白磁のような肌。すらりと長い手足。華奢な体系。
確かに普通家庭ではありますが、その分近寄り難いなどということもなく、お隣のきれいなお姉さん的地位。中の上の家。
ちゃんと学業だってこなしてまいりました。
ほら!美人は馬鹿とか言われたくないでしょう?才色兼備!
……確かに、運動は些か苦手ではありますが、そこは愛嬌というもの。
夢見る先は、大切な誰かの妻となりその方の支えとなる!っはず!
それなりに声を掛けていただくことはあっても、なかなかどうも「ピン」とこなかった。まぁとりあえずお付き合いしてはみたもののどうにも自分の外見だけで寄って来る様でつまらない!
*****
「あ~つまらない!!」
半年前もそう思いながら、人並みに就職活動をしていた。
まぁ、今回もいい手ごたえを感じつつ、希望の外資系会社のビルを出てから彼に会ったのです。
ビルを出ても、誰に会うかはわかりません。背筋を延ばして、きちんとしていなければ。
そう思いつつ、あまりの暑さにビルが見えない程度の距離まで来て、黄色と黒のロゴのカフェで体を冷やそうとドアを押したところでした。
『ガンッ!』
――衝撃は突然でした。
私の顔面、額付近にヒットしたのは押したはずのドア。
私が押すが早いか、相手が押したほうが早かった。
そのまま、ひっくり返るように目に星を瞬かせ、後方にひっくり返り宙を仰いでいました。
「失礼!大丈夫ですか?急いでいたので、申し訳ない!」
その声を追ってキッと睨みつけると、来たのです!!
『ピン』
の瞬間が――――!!
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