第1章

3/10
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「立てますか?頭打ちましたか?大丈夫ですか?」  見た目とは裏腹に、心無い言葉を連発するこの男が差し出した手を取り立ち上がると、彼はサッと名刺を取り出し、私は半ばクラクラする頭を押さえながら受け取った。 「あ~!これから学会なので、時間がないのです。何かありましたらこちらに!では!」 …………??? はあぁぁぁぁぁぁぁ?! 私を放置して風のように去っていきました。ってここ普通に現代だし!何?このちょっと古そうな話は?! え?!自己都合重視?!私もこの後まだ行くところあるのに!?おでこに触れるとぷっくり腫れている。 店員が駆けつけて、世話をしてくれるが苛立ちが治まらない!! 店内から笑い声すら聞こえてくる。 ふ、ふざけるな~~~!! 叫びたいのを堪え、店員にビニール入りの氷を渡され、サービスと言われアイスコーヒーを一気に飲みお代わりまで頂いた。だが、当事者からは名刺一枚ってどういうことよ! もちろん、次の会社訪問はまず「クスッ」から始まったのは言うまでもなく、帰り道もおでこのガーゼにチラチラと視線が集まったのも言うまでもない。セミロングではあるが、でこ出しは面接の基本。思い切りだしているのだ。 自宅に帰ると母が驚いて、そして笑った。 笑えるって、娘の顔に傷がついたのに笑えるって!!無神経な!! 許さん!あの男!そう思って名刺を見ると。 三流大の准教授とあった。 押しかけて、叱り飛ばしてやるつもりで次の日、大事な時間を割いて訪れた。 彼の准教授室を聞き、おでこにはガーゼでドアをノックした。 「開いてるよ~。どうぞ~」 緩そうな声しおって!! それでも、ホームグランドではない大学だ、緊張もする。上擦る声で 「しっ、失礼します!」 と中に入ったのだが、本が山積みで人が見当たらない。 「あの!失礼します!」 「あ~こっちだよ」 どっちだよ!辺りを見回しているうちに、今度は何かのトラップか? 振り返った先にあった本の山が崩れた。 「ふぎゃ!!」 下敷きになった私に、また手が伸びる。 「あ~。大丈夫かい?いや、最近いい本が手に入ったもので、まだ整理できてなくてね。失礼」 昨日の憎きあの顔が、私の顔面を隠す本をどけると現れた。 窓から差し込む光にホコリがキラキラして、なんだこの演出!!
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!