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「立てますか?頭打ちましたか?大丈夫ですか?」
見た目とは裏腹に、心無い言葉を連発するこの男が差し出した手を取り立ち上がると、彼はサッと名刺を取り出し、私は半ばクラクラする頭を押さえながら受け取った。
「あ~!これから学会なので、時間がないのです。何かありましたらこちらに!では!」
…………???
はあぁぁぁぁぁぁぁ?!
私を放置して風のように去っていきました。ってここ普通に現代だし!何?このちょっと古そうな話は?!
え?!自己都合重視?!私もこの後まだ行くところあるのに!?おでこに触れるとぷっくり腫れている。
店員が駆けつけて、世話をしてくれるが苛立ちが治まらない!!
店内から笑い声すら聞こえてくる。
ふ、ふざけるな~~~!!
叫びたいのを堪え、店員にビニール入りの氷を渡され、サービスと言われアイスコーヒーを一気に飲みお代わりまで頂いた。だが、当事者からは名刺一枚ってどういうことよ!
もちろん、次の会社訪問はまず「クスッ」から始まったのは言うまでもなく、帰り道もおでこのガーゼにチラチラと視線が集まったのも言うまでもない。セミロングではあるが、でこ出しは面接の基本。思い切りだしているのだ。
自宅に帰ると母が驚いて、そして笑った。
笑えるって、娘の顔に傷がついたのに笑えるって!!無神経な!!
許さん!あの男!そう思って名刺を見ると。
三流大の准教授とあった。
押しかけて、叱り飛ばしてやるつもりで次の日、大事な時間を割いて訪れた。
彼の准教授室を聞き、おでこにはガーゼでドアをノックした。
「開いてるよ~。どうぞ~」
緩そうな声しおって!!
それでも、ホームグランドではない大学だ、緊張もする。上擦る声で
「しっ、失礼します!」
と中に入ったのだが、本が山積みで人が見当たらない。
「あの!失礼します!」
「あ~こっちだよ」
どっちだよ!辺りを見回しているうちに、今度は何かのトラップか?
振り返った先にあった本の山が崩れた。
「ふぎゃ!!」
下敷きになった私に、また手が伸びる。
「あ~。大丈夫かい?いや、最近いい本が手に入ったもので、まだ整理できてなくてね。失礼」
昨日の憎きあの顔が、私の顔面を隠す本をどけると現れた。
窓から差し込む光にホコリがキラキラして、なんだこの演出!!
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