第1章

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この半年間。彼が私の一回り上だということも分かった。 ちょっとした変人で、彼の言うように「ひと言多い」のが原因で彼は 空気の読めない奴として認知されている。 しかし、それなりのルックスで初めは人気を得るものの、女子人気は下降している。 結局、学生と先生のロマンスなんてあるはずもないようだった。 残り少ない学生の身分、邪魔してやろうと思ったのに全く動じない。 怒りもしなければ、邪魔にもされない。 でも、使われてる気がする……。 そして、貴重なクリスマスも終わり、すでに冬休みだ。 そこで聞いたのがその噂だった。 「人寄先生。教授のお嬢さんと婚約するらしいよ……」 「人寄ちゃんも、出世には食いつくんだ~あはは」 うっかり廊下で聞いてしまった。 「へぇ、政略結婚とかはしちゃうんだ……」 ポツリと心の声が駄々漏れしていた。 なんとなく、そのまま先生に会うのが嫌だった。 自販機が固まって置いてあるベンチにぼんやりと座っていた。 「あの~」 不意に背後から声を掛けられて、振り返ると白衣を着てメガネをかけたいかにも理系な男子と、髪をきゅっと結った同じく理系女子。 「なんでしょう?部外者は帰れですか~?」 「「いえいえいえいえ!」」 二人は同じ動きをする、右手を顔の前でパタパタと振りながら首を振る。 「私どもは、研究をしておりましてご協力願えればと」 「この小瓶の薬を飲むと、姿が十二時間だけ見えなくなるのです」 「あ!お疑いですね!こちらのカメラをご覧ください!」 そういって、これを飲み、姿の見えない実験結果を映した動画を見せてくれた。 この間、私は一言も発していない。 「私は榊、こちらのメガネは黛です。こちらの薬学部四年です」 「はぁ」 これが初・私の発した言葉である。 「差し上げますので、良かったらどうぞ。ただし!十二時間ですよ!お忘れなく~」 そのまま、二人は立ち去り、淡い紫色の50CCほどの小瓶が残された。 キャップを空けると、栄養ドリンクみたいな匂いがする。 こんな怪しいもの飲むわけがない!!そう思っていた。 ……けど、カバンにしまって、その日はそのまま帰宅した。
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