第1章

7/10
前へ
/10ページ
次へ
未だ嘗て、先生はLINEなんてしないし、メールも1週間しないと返って来ないなんてざらだ。電話だって不携帯だから私が会いに行くほうが早かった。 本当に結婚するのだろうか? 男なら、出世は当たり前だ。ましてや私はなんでもないんだ。 これでも自分に自信があったのに。 この半年、何にも甘いことなどない。 ……私、好きって人に言った事ないんだ……。 そんなことに、今更気が付いた。 一晩寝ずに考えて、直接聞いてみることにした。 昼過ぎには先生の授業は終わる。 それに合わせて行ってみたのだ。 「こんにちは。先生!」 またも振り返りもせずに、黙々と古い本を捲りパソコンに打ち込んでいる。 「君は貴重な学生生活を、こんなところに来てていいのかい?」 顔も上げずに抑揚のない声が響く。 「はい。あの、先生は結婚とか興味ないんですか?」 「ないけど」 「じゃあしないんですか?」 「必要があればするかもしれないね」 淡々と、迷うことなく返事が返ってくる。 言葉に詰まってしまった。聞くことが出てこない。 「あ~明日は教授のお嬢さんが見学に来るから、他校の生徒がいるとまずいから控えてもらっていい?」 そのまま、こっちもみないで言わないでよ。 「そう、ですか」 それだけ言って、准教授室を出てきてしまった。 肝心なことが聞けない。 私かわいくない……。 「うらみわび ほさぬそでだに あるものを 恋にくちなむ 名こそをしけれ……と言ったところっすかね」 また、あの自販機のベンチにいると背後からそんな歌が聞こえてきた。 榊と黛だ! 「あなたに失恋して袖を濡らしたままも嫌だけど、失恋した話で私が落ちるのも嫌ってとこですか?ふふ」 「違います!ほっといてください!」 二人は近づくと、私の両肩を押さえ、両耳に囁いた。 「「私達が手引きします。だからあの薬を飲んで明日邪魔をしましょう。私達は味方ですよ。十四時ここで待ってます」」 振り返ると、すでに二人は居なかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加