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未だ嘗て、先生はLINEなんてしないし、メールも1週間しないと返って来ないなんてざらだ。電話だって不携帯だから私が会いに行くほうが早かった。
本当に結婚するのだろうか?
男なら、出世は当たり前だ。ましてや私はなんでもないんだ。
これでも自分に自信があったのに。
この半年、何にも甘いことなどない。
……私、好きって人に言った事ないんだ……。
そんなことに、今更気が付いた。
一晩寝ずに考えて、直接聞いてみることにした。
昼過ぎには先生の授業は終わる。
それに合わせて行ってみたのだ。
「こんにちは。先生!」
またも振り返りもせずに、黙々と古い本を捲りパソコンに打ち込んでいる。
「君は貴重な学生生活を、こんなところに来てていいのかい?」
顔も上げずに抑揚のない声が響く。
「はい。あの、先生は結婚とか興味ないんですか?」
「ないけど」
「じゃあしないんですか?」
「必要があればするかもしれないね」
淡々と、迷うことなく返事が返ってくる。
言葉に詰まってしまった。聞くことが出てこない。
「あ~明日は教授のお嬢さんが見学に来るから、他校の生徒がいるとまずいから控えてもらっていい?」
そのまま、こっちもみないで言わないでよ。
「そう、ですか」
それだけ言って、准教授室を出てきてしまった。
肝心なことが聞けない。
私かわいくない……。
「うらみわび ほさぬそでだに あるものを 恋にくちなむ 名こそをしけれ……と言ったところっすかね」
また、あの自販機のベンチにいると背後からそんな歌が聞こえてきた。
榊と黛だ!
「あなたに失恋して袖を濡らしたままも嫌だけど、失恋した話で私が落ちるのも嫌ってとこですか?ふふ」
「違います!ほっといてください!」
二人は近づくと、私の両肩を押さえ、両耳に囁いた。
「「私達が手引きします。だからあの薬を飲んで明日邪魔をしましょう。私達は味方ですよ。十四時ここで待ってます」」
振り返ると、すでに二人は居なかった。
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