恋文

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そんなある日、いつものように総一郎が桃色梅の木の下で花を眺めていると、目の前に桃花が現れた。 総一郎の顔が喜びの色に変わる。 「桃花、やっと帰ってきてくれたんだね。私はずっと待っていたよ」と言うと総一郎は桃花の顔をした女性を抱きしめた。 桃花のはずの女性は 「すいません。私は桃花じゃないです。実は養子に出されていた。ふたごの妹のサクラです。桃花に頼まれてやって来ました。とりあえず手を離してくださいませんか」と言う。 総一郎は驚きの顔を隠せないでいた。 「桃花じゃない。じゃあ、桃花はどこにいるんだ。私は桃花をずっと待っているのに」と悲しそうな顔になる総一郎だった。 桃花に顔が似ている双子のサクラは一呼吸してから話しはじめた。 「桃花は、あなたの事を愛していました。だから、あなたをずっと思ってあなたの所へ帰る事を夢見て、癌と言う病と闘っていたのです。でも桃花の命の火は燃え付きました。自分の変わり果てていく姿をあなたに見せたくなかったのでしょうね。あなたに恋文を何枚も書いては箱にしまい。あなたに出すことはなかったのです。
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