猫の鈴

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猫の鈴

 最近、マンションから一軒家に引っ越した。そこに、一匹の猫が居ついていた。  生粋の野良ではないらしく、家族が近づいてもほとんど警戒しないし威嚇してもこない。  よく、犬は人に、猫は家につくというが、以前にここで飼われていた猫が、飼い主の引っ越し後も何年も居座り、半野良にでもなったのだろうか。  今までが動物とは縁のない暮らしだったので、最初は親もこの猫を追い払おうとしたのだけれど、私や弟がせがみ、また、猫自体が懐っこく、居ても何の問題も起こさない気性だったので、そのまま家の飼い猫として扱うことになった。  過去に経験があるのか、特に嫌がる様子もなかったので、一度きちんと動物病院で検査をし、各種予防や登録を済ませる。その上で首輪をつけ、家族で決めた名前で呼ぶようにした。  みんなで決めた猫の名前は『マモリ』。私達がここに引っ越してくる前からここにいて、まるで家を守っているようだったからそうつけた。  マモリは家の中には滅多に入らない。単純に外が好きなのか、屋内が苦手なだけかは知らないけれど、たいてい庭の、芝生が植えられている一角でごろごろしている。それ以外は好き勝手に一人歩き。  その気ままな行動が可愛かったから、誰もマモリを束縛しなかった。ただ、あんまりそこいらをうろつくものだから、多分大丈夫だとは思うけれど、うっかり変な場所に入り込んでしまった時、すぐに場所を特定して探し出してあげられるようにと、首輪に小さな鈴をつけた。もちろん、近所迷惑にならないよう、ごくごく小さな音しかしない物だけれど、家族の気休めには充分だった。  そんな暮らしをしていたある日。  両親と弟が皆それぞれの都合で家を空け、私だけが暇を持て余して留守番をしていた。  休日だから自分も出かければいいのだけれど、特に何をしたい予定もないし、そもそもあまり出かける気分にならない。  こんな日は、猫と戯れて過ごしたいなと、私はマモリを構いに庭へ出た。けれどそこにマモリの姿はない。  またどこかを散歩しているのだろうか。  そう思った私の視界の端に、見慣れた尻尾の先がちらついた。
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