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たかが猫の尻尾なのに、それが地面を叩いた瞬間、大きな揺れが私を襲った。
足元の揺れに反射でしゃがみ込む。何が何だか判らず、ぎゅっと目を閉じて揺れが収まるのを待つ。
やっと振動が完全に消えた。そう思って開いた私の目には、もう、さっきまで通路の所に見えていた尻尾は映らなかった。 …その代わりに。
反対の通路から見慣れた姿が顔を覗かせる。にゃあんと甘えた声を出してすり寄ってくる。
それを微笑ましく見つめる私の目の前で、突如マモリの首輪の鈴が割れた。
いつも見ているから知っているけれど、まだ鈴は新しく、今朝見た時もヒビも錆も見当たらなかった。なのに鈴は、ものの見事に真っ二つに割れている。
その光景が私の疑問を次々と揺さぶった。
さっきまで追いかけていたあの尻尾。あれは本当にマモリのものだったのだろうか?
違うなら、あれはどこの猫だったのか? いや、そもそもあれは『猫』だったのか?
もしかしたら、何か得体の知れないものが私を騙して後を追わせていたのではないだろうか?
マモリは鈴の音で、それを私に教えてくれたのではないか?
…もしも、私がマモリの鈴に気づかず、ずっとあの尻尾を追いかけていたら、その時私はどうなっていたのだろう…?
答えの出ない自問自答に背筋を冷やしながら、私はマモリを強く抱きしめた。
この件の後、私はすぐにマモリに新しい鈴を買って贈った。
前のと同じ大きさ、同じ色、形の小さな鈴。もちろん音も同じ響き。
今日もたまにその音を響かせながら、マモリは我が物顔で家や近所を歩きまわる。その姿を、まるでパトロールのようだと思いながら、私は微笑ましく見つめている。
猫の鈴…完
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