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「お母さんは、透明人間になったんだ」
そう言って父が僕を抱きしめたのは、家の中から母の姿が消えてから3日後のことだったように思う。
「お父さん、悲しいの?」
父は答えなかった。
「お母さん、もう見えなくなっちゃったの?」
父の肩が小さく震えていた。沈黙が全ての答えだった。
寂しくないと言えば嘘になるけれど、母は消えてしまったわけではないのだから。家に帰れば在りし日と同じように僕を笑顔で迎えている。そう、僕が見えないだけで、何も変わってはいないのだ。
「ただいま」と家に帰り、そこにいるはずの母に向かって今日あった出来事をおもしろおかしく報告する。時には何も話したくなくて沈黙する日もあったけれど、どんな日だって母はそこにいて、僕を優しく受け止めてくれた。
僕は、母が大好きなんだ。
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