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結婚相談所で知り合った彼とデートを重ねる中で、「家に遊びに行きたい」「ご家族に挨拶をしたい」とねだる私の言葉は幾度となくはぐらかされていた。
「私は、家族に会わす価値がないっていうこと?」
ついきつい口調になった私の言葉に、彼は傷ついた子犬のような瞳を向けた。
「あまり家に人を呼びたくないんだ。今まで家に来た人たちは決まって“理解できない”、そう言う目で僕を見るから。」
「そんなの、私はどう思うか分からないじゃない。」
好奇心もあった。私は違うという意地もあった。30歳の誕生日を間近に控えた私は焦っていて、彼の信頼を得て、2人の関係を盤石なものにしたいという打算が働いていた。
玄関先をくぐった私に、彼は父親とは数年前に死別したのだと告げた。一人暮らしにしては広すぎる住居。ガランとした空っぽの空間を必死で埋めるかのように、部屋の至るところには家族写真が並んでいた。
「…でも、嬉しいな。話してくれて。」
私は上目遣いで彼を見上げた。
「これからは、私がお母さんの分も支えるから。寂しい思いなんかさせないから。」
「…え?」
「2人暮らしにぴったりな物件、この前見つけたんだよ。週末2人で見に行こうか。」
「…僕の話を聞いてたの?」
すっかり浮かれていた私は、彼の冷たい眼差しに射抜かれて泡肌が立った。
「母は…母は、今も昔と変わらず、僕を支えてくれているよ。それに、2人暮らしなんて始めたら、母はこの家で一人で暮らすの?」
「え…?」
聞き返すのは私の番だったけれど、寂しそうに「君も、他の人と同じなんだね。」と伏し目がちになる彼の姿を見ると、私は何も言えなかった。
彼は、この家で母親が生きていると信じているのだろうか?視線を感じたような気がして振り返ったけれど、もちろんそこには誰もいない空間が広がっているだけだった。
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