プロローグ

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まず始めに。 この物語の主人公、瀬尾 猶利(せの ゆうり)は3月3日生まれの30歳男性である。 裕福な家庭に生まれ、優しい両親と兄弟に囲まれて育った。 初めて彼女が出来たのは中学2年生の夏。 成績も申し分なく、高校は地元では有名なエリート校に進学。 その後上京し、超有名大学に入学。 何不自由ない人生だ。 そう。 就職するまでは。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 オフィスには、カタカタとキーボードを叩く音のみが響き渡る。 決して人が少ないわけではない。 だが誰も喋ることなく、ただ只管己の業務をこなしていた。 言わずもなが、俺もその一員である。 「終わらねぇぞ・・・これ」 小さく呟いてちらりと時計を確認した。 時刻は11時48分。 既に終電は行ってしまった。 しかしオフィス内にはまだ20人程人が残っていた。 これは、今夜も徹夜コースか・・・。 思わず溜息を吐いた。 「瀬尾さん・・・」 「ん?」 今にも消えてしまいそうな声。 微かに聞き取れた自分の名前に振り返れば、目の下に隈を作った後輩がファイルを手に立っていた。 「これ・・・この間の案件。打ち合わせ、いいですか」 「分かった。先第2会議室行っててくれ」 「はい・・・」 よろよろと去っていく後輩。 その哀れな姿に同情せざるを得なかった。 可哀想に、まだ若いのに。 こんな会社に入ったばかりに・・・。 まぁそれは自分も言えないのだけれど。 棚から資料を取り出すとボールペンを持って席を立った。 「打ち合わせで第2会議室行ってきます」 一応そう告げるとちらほらと返事が返ってきたが、皆パソコンから眼を逸らすことはない。 息を吐いて後輩の待つ会議室に行こうとしたのだが、背後から呼ぶ声に後ろを振り返った。 「何ですか?」 俺を呼んだのは課長だ。 椅子に踏ん反り返ってでっぷりとした腹をつきだし、寂しい状態の頭を撫でている。 「俺、今日はもう帰るから。後宜しくな」 「分かりました」 「それじゃ、お先」 そう言って席を立った課長にお疲れ様でしたと頭を下げる。 それに続いてオフィスにいる他の社員も立ち上がって頭を下げた。 そして暫く経ち、課長がいなくなったのを確認してから再び息を吐いた。
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