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『・・・・・・』
「え、何々?どうしたの?」
首を傾げる彼女・・・否、彼は不思議そうにしている。
腰まで伸ばされたミルクティ色の髪、長い睫毛に縁取られた群青色の瞳は大きく、小柄な体格はどう見ても女性だ。
しかし、服の上からでも分かるほどに彼の胸は見事なまでのぺったんこだった。
固まるユーリと首を傾げる彼。
しかしその硬直は、ユーリの背後から聞こえたシャムの舌打ちによって消え去った。
今までのパターンからいくと確実に背後から何かしらの攻撃をうけると咄嗟に察したユーリは慌てて身を起こし、慌ただしげに手を動かす。
『いや、あの、すいません。女性だと思ったものですからっ』
そう言ってからユーリはこれでもしもこの人がただの胸の小さな女性だったら失礼なことを言ってしまったと思ったが、既に後の祭り。
どうか男性であってくれと、ごくりと喉を鳴らした。
しかし目の前の彼はというときょとんと目を瞬かせている。
そして不思議そうに首を傾げた。
「女性も男性もいないよ?」
『・・・え?』
彼の言っている意味がわからず、ユーリも首を傾げる。
そしてシャムへと視線をむけるとシャムは苛立たしげに目頭を押さえながら答えた。
「俺たちに性別はねぇ。俺たちは生き物じゃねぇからな」
『生き物じゃない?』
それはどういう意味なのか尋ねようとしたユーリだったが、それはシャムによって遮られた。
「俺はまだやることあんだよ!てめぇらもさっさと仕事に戻りやがれ!」
「ひぇっ!!」
怒りのオーラを纏いながらそう声を張り上げたシャムに彼はびくりと肩を跳ねさせ、慌てて崖の下へと戻っていく。
崖の淵から覗いていた大勢の頭も、シャムの怒号に慌てて引っ込んでいった。
彼等と同じように逃げ出したかったユーリだったが、直ぐに鋭い視線に貫かれては動くことが出来なかった。
「黙って。ついて。来い」
『・・・はい』
ワンフレーズ毎にしっかりと釘をさすように言われてはユーリは素直に頷くしかなかった。
元々ガラが悪かったシャムだが、相当苛立っているのか先程までに増してガラが悪い。
ユーリは初めて早くフィオゼロの元へと行きたいと思ったのだった。
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