狗賓様

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 何日か経った頃,見たことのないおばちゃん達が家にやってきた。  みんな動いたらお腹が空くことはわかっていた。だから,みんなで丸くなって部屋の片隅でひとつになって動かない様にしていた。  見たことないおばちゃん達は,おばあちゃんの家をみてまわってから,何日も前に空っぽになったお皿にご飯を入れてくれた。  おばちゃん達がおばあちゃんの名前を呼びながら家の中を捜していたが,どこを捜してもおばあちゃんの姿はなかった。  やがて知らないおじちゃん達もやってきて,おばあちゃんの名前を叫んでいた。おじちゃん達は,家の周りに生い茂った草をカマで刈りながら,おばあちゃんの名前を呼んでいた。  僕もミーコも,他の猫たちも必死に食べた。  おばあちゃんが消えたことは分かっていた。黒い毛むくじゃらに連れて行かれたことも分かっていた。  悲しいとか,寂しいとか,そんな感情はなかった。  急いで食べたから,ミーコが何度かゲロを吐いた。ゲロを吐いて,またすぐにご飯を食べ始めた。  僕たちは,ただただ空腹を満たすことだけを考えて必死に食べた。  僕たちはずっと前から分かっていた。  天井から毛むくじゃらの黒い影が僕たちをジッと見つめていたことを。
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