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「おばあちゃんがねぇ……あんたより,小さかった頃はねぇ……いっつも山や川で遊んでたんさぁ……
でなぁ……おばあちゃんがお隣りのよしこちゃんと一緒に川で遊んでたらなぁ……近所の浩史って悪ガキがなぁ……河原で小さなタヌキみてぇな,変な生き物を捕まえたって大騒ぎしてたんよぉ……
でなぁ……おばあちゃんたちも興味があって見に行ったら,麻紐で括られた,小さな小さな獣が変な声で唸ってたんよ……もう……おっかなくて,おっかなくて……タヌキっていうより,黒っぽくて、目がデッカくって……なんか,見たことのねぇ生き物だった……」
おばあちゃんは,お茶を飲み,一息つくと遠くを眺めるようにして,しばらく動かなかった。
「あの,生き物なぁ……浩史が捕まえたヤツなぁ……何度思い出しても,タヌキじゃねえんだ……全然違うって,よしこちゃんも言ってたし,おばあちゃんも違うってすぐわかった。
目がギョロギョロしてて,おっかねぇ声で鳴きわめいていてなぁ……
あの日から,夜,便所に行くのも怖くなってなぁ……
でな,浩史が捕まえた,あれなぁ……村で大人たちが大騒ぎになったんだ……」
おばあちゃんはお茶をすすりながら,いつもテーブルの上に置いてある,おばあちゃんのお気に入りの漬物を爪楊枝で刺し,ゆっくりと口に入れてからモゴモゴと口を動かした。
僕は黙っておばあちゃんが口をもぐもぐしているのを見ていた。
時々,おばあちゃんが僕にも漬物を食べさせようとするけど,僕はにおいが嫌いで絶対に食べなかった。
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