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「ほんでなぁ……あの獣を捕まえてから,しばらくして浩史の家が火事になっちまってなぁ……全部,燃えちまった。
村のみんなも浩史が山神様を捕まえたからだとか言ってなぁ……
もう,みんなおっかなくてビクビクしてたんよ……」
僕は、おばあちゃんの話をじっと聞いていた。
「おばあちゃんが最後に浩史に会ったとき,浩史が十三歳くらいだっけ……浩史がなぁ……おばあちゃんに教えてくれたんだけど,あの獣はタヌキじゃねぇ……狗賓様っちゅう,山神様の一番下っ端っちゅうか……天狗様の使いっ走りっちゅうか……見た目がおっかねぇ獣だったんだけど,人が手を出しちゃいけねぇお方だったんよ……タヌキくらいの大きさだったけどなぁ……
浩史は馬鹿たれだったから,山に住む言い伝えを破っちまいやがった……たぶん,浩史は知らんかったんだろうけど……おばあちゃんも知らんかったし……
ただ,狗賓様を捕まえちまったもんだから……村の大人たちがパニックになったっちゅうのも分かるわな……
それからだ……村に飢饉が訪れて,畑は駄目になるし,獣は捕れなくなるし……みんな狗賓様か山神様を怒らせちまったって……でも,浩史の家のもんはみんな村を出ていなくなっちまってたしなぁ……
すぐに少しずつ村から人がいなくなって,村に誰も近寄らなくなったもんだから,国がダムを造るってなって,村がダムの底に沈んじまったんだよ……
その頃から,おじいちゃんの商売もうまくいかなくなってなぁ……まあ,中国から安い墓石が輸入されるようになったり,色々あったんだけど,他の石屋が元気なときに商売を辞めることになったんだよ……でなぁ,仕事を辞めたおじいちゃんはすぐに逝っちまったんよ……」
おばあちゃんは日向で横たわる黒猫のミーコを眺めながら,お茶をすすった。
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