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「おばあちゃんはなぁ……あの村の生き残りでなぁ……いまでも狗賓様のお怒りを許されておらんのよ……
浩史のところは,最初に全員逝っちまった……子供たちは十五になる前に……大人たちはみんな子供がいなくなると追うようにして逝っちまった……
他の村人も,ほとんどが若くして逝っちまった……
じいさまやばあさまは,まあ寿命まで生きたんじゃないかなぁ……狗賓様も年寄りは見逃してくれたんだろ……
あの頃,おばあちゃんはまだ子供だったから,怖かったなぁ……
なんで,おばあちゃんが齢をとってもピンピンしてるのか,あんたには教えておいてやらんとなぁ……
もう……おばあちゃんが,あの村の人間で最後の一人なんよぉ……
随分と長生きできたなぁ……」
僕は急に怖くなった。
「黒猫……黒猫が家にいると狗賓様が近づいてこないんだよ……
なんでかは知らんけど……ほんとうに偶然……たまたまうちで飼っていた猫が黒猫だったんだ……
狗賓様が近くにいるのは感じてるんよぉ……いっつも見られているのも分かってる……
だから,うちにはたくさん猫がいるけど,必ず黒猫がいるんよぉ……狗賓様が寄って来ないようになぁ……」
おばあちゃんは皺くちゃになった手を広げて,まるで掌になにか書いてあるかのように眺めていた。
時々,おばあちゃんが両手を広げて,まるで鏡でも見ているかのように掌を眺めていることがあった。それが,おばあちゃんの癖だと思っていた。
僕はおばあちゃんを眺めながら,話し始めるのを待っていた。
おばあちゃんは掌を覗き込むように眺めならが,ゆっくりと深呼吸をした。
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