狗賓様

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「あ……」  おばあちゃんは小さくつぶやくと,ゆっくりと手を閉じて静かに外を眺めた。  静かな時間だった。その間,僕はおばあちゃんをずっと眺めていた。 「そろそろ……だねぇ……ずっと,みんなが……村のみんなが,ずっと待ってるから……おばあちゃんも,そろそろみたいだよ……長生きしすぎちゃったかもしれんねぇ…… ミーコも齢を取りすぎちまったんだろうね……昔は艶やかで濡れたように真っ黒だったけど,もう白髪も生えて,ところどころ白いところもあるからねぇ…… あんたたちの世話をする人がいなくなっちゃうねぇ……いちおう,施設の人には伝えてあるけど,みんな一緒に生活はできなくなっちゃうよ……ごめんねぇ…… みんなのことだけが,心配だよ……」  おばあちゃんは,ミーコを抱き寄せて体を撫でていた。  どれくらい時間が経ったか分からなかったが,日が落ちて辺りが暗くなっていた。  おばあちゃんが何度も何度も猫たちを抱きかかえ,撫で,耳元でぼそぼそと何かを伝えていた。  そして,そっと僕の頭をしわしわの手で撫でた瞬間,大きな黒い,嗅いだことのない異臭を放つ毛むくじゃらの何かが,おばあちゃんの小さな頭を丸呑みにした。  おばあちゃんの身体がぐにゃりと歪んだかと思うと,首のなくなったおばあちゃんの身体が前後左右にぐらぐらと動いていた。  僕もミーコも,そして他の猫たちもまったく動けなかった。  おばあちゃんの頭を丸呑みした黒い毛むくじゃらは,僕たちを無視したまま,ゆっくりとおばあちゃんの身体を包み込むと黒い煙のようになった。  僕たちは黒い煙に包まれたおばあちゃんの身体が黒い毛むくじゃらの何かに連れ去られていくのを黙って見ているしかできなかった。  僕たちは家の中で,ただただ黙ってじっとしていた。
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