透明人間児童福祉士、安奈

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実習期間中に経験した例を一つ話そう。 ケンジ君(8歳)は、母親と彼女の恋人による殴る蹴る、煙草を押し付ける、育児放棄といったニュースで報道される児童虐待の典型的ケースで保護された。誰に対しても攻撃的に接し、職員が近付くと頭を庇う、被虐対児童によく見られる防衛反応が見られた。 実習先のミオリ先輩について彼のフォローをした経験は今でも忘れられない。 いつものように癇癪のスイッチが入った彼を背後から抱き締めながら止めようとした私。 「離せーっっ!ババア!俺に触るな!触んな!やだあ!やだあ!」 「ケンジ君!落ち着いて?大丈夫、大丈夫だよ!お姉さんもここにいる先生やお友達もみんな君を傷付けたりしないから!誰も君を叩いたり熱い事をする人はいないよ!」 「やだあ!やだあ!ごめんなさい!ごめんなさい!僕が悪いんです!僕のせいなんです!悪い子だから!僕は悪い子だから!ごめんなさい!助けて!助けて…」フラッシュバックと再体験をしたケンジ君はかなりのパニック状態で、私は実習中に胸が詰まり、涙を堪えながら小さな体を抱き締めた。 荒い吐息、恐怖と予期不安に怯えた瞳は次第に落ち着きを取り戻していった。 私が抱き締めてから数分後、彼はきょとんとして言った。 「お姉さん、僕、もう何処も痛くないよ。何でかな?お姉さんが抱っこしてくれたから…僕の怪我無くなってるよ。」 「本当?良かった…良かった…本当に良かった!ケンジ君…もう何も怖い事は起きないからね。大丈夫よ…君は生きてていいの…悪い子でもないの。君は…君のままでいいんだよ」 「よく分からないけど…お姉さん、ありがとお~」
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