透明人間児童福祉士、安奈

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大学卒業後、大学院に進んで更に、児童福祉士の仕事に就く為の勉学に励み、実習にも積極的に参加し続けた。 そして、児童福祉士の資格試験に合格。 就職活動の中、沢山の児童福祉関係の面接を受け続けたが、最終的に最初の実習で御世話になった「スマイル児童家庭相談所」に内定が決まった。 大学院卒業後は、私の特殊能力を受け入れてくれた上での内定だが、暫くは3ヶ月の試用期間を乗り越えなくてはならない。 電話相談や子ども達との関わり方、保護者対応、相談所の事務やケースへの知識、理解。覚えなくてはならない事が山程あり、仕事から帰宅した後は泥のように疲れ果てて眠る毎日。 だが、教えられた知識をノートで確認し、一つ一つ頭に叩き込んで復習した。 3ヶ月研修はあっという間に終わり、私は正社員として晴れてこの職場の一員となった。 だが、私の透明人間になれる特殊能力を仕事に活用出来る「特例」も含めての内定だ。 私は研修期間中にも、体に傷が残る子ども達一人一人と向き合い、声を掛け、話を聞き、抱き締めたり一緒に遊んだりする経験を通す中で、子ども達に触れただけで彼らの痛々しい傷痕を治癒していった。 更には、先輩に同行して家庭訪問をした際には、「虐待は無い!」とか「人の家庭に踏み込むな!」「うちの躾に口出すな!」と抗議し、怒り狂う保護者の対応にも大いに役立った。彼らとほんの僅かに体がぶつかったり、肩や腕に触れただけで嘘のように素直に話し合える状態に変わったのだ。 自分でも信じられないが、この特殊能力は私自身を本当のなりたい自分へと変えたのである。 虐待の加害者は被害者である児童と同じぐらい…いや、それ以上に様々な性格があり、対応が困難だ。 子育て経験のある彼らの心の傷は深く、貧困による経済的事情や、幼少時に受けた過った「躾」による人格形成の歪み、世代的な価値観の違いもある。親に殴られ蹴られが当たり前だった。だからこそ親がしてくれた躾は正しい、虐待ではないと抗議する声も何度聞いてきた事だろうか。 私は彼らの話を先輩に同行して熱心に耳を傾け、心のサインを記録し、対応に努めてゆく。彼らが興奮し、荒れ狂って子どもに殴り掛かったり、私と先輩の胸倉を掴んで怒りをぶつけた際には、その暴徒を阻止すべく、体に触れて落ち着かせた。
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