2人が本棚に入れています
本棚に追加
懐かしい懐かしい、切ない感覚が一気に全身を支配し、暫く一瞬僕はまどろんだような気がした。
冷たい椅子の脚から陰が伸びて、ひとりの髪の長い女性を型どった。あぁ、僕はこのひとを知っている、と思う。
すらりと白く長い指先が銀の鍵盤に触れ、あぁ、この綺麗な指先も、僕はよく知っているんだ、と思う。
傍らのピアノ自身の脚から伸びた短い陰は、幼い子どもを型どった。
栗色にきらめく柔らかい質感は、それは僕。きっと僕自身に違いがなかった。
きっと、それらは原初的な心象風景で、夢だか現実だか判然としない不確かなものではあったが、確かに僕の中に存在している風景のようだった。
はっと我に帰ると、埃を被ったピアノは相変わらず沈黙を守り、無機質な感情を湛えていた。
最初のコメントを投稿しよう!