ピアノと心象風景

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週末、僕は久しぶりに実家に帰省した。 母親に、「ピアノはどこか」と尋ねると、離れの倉庫だと言う。 それこそ十数年ぶりに離れの倉庫に向かうと、入り口付近に、ひっそりと埃を被った木製のアップライトピアノが置いてある。 見覚えがある。 懐かしい。 僕のピアノだ。 僕の大好きだったカワイのアップライトピアノ。 木目調のフレームには温もりがある。 僕は、小学校二年生までこのピアノを弾いていたのを思い出した。 なんだ、僕はあの場所で、これを見たんじゃないか。 間違いがなかった。 僕のピアノと、音楽堂のピアノを錯覚したのだ。 なんだ、そういうことじゃないか。 僕は合点がいって、そして何だか興醒めしてしまった。
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