ピアノと心象風景

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倉庫を後にして、リビングに戻ると、母が紅茶を入れていた。 そう言えば、ピアノの練習が終わると、母は必ず紅茶を入れてくれた。 あのさ、ピアノのことなんだけど。 ピアノなんて、懐かしいわね。 いつから倉庫に。 あぁ、あなたが出ていってからだから、もう十年くらいになるかしら。 そう。 あなた、まだピアノは弾くの? いや、最近は全然。 もったいないわね、お金、かけたのよ。 そう言うと、母は少し困ったように微笑した。 甘ったるい紅茶を啜りながら、配置の変わらないソファやダイニングテーブルや時計を眺めると、この家を後にした高校生の時分から、一切なにも変わっていないような気がした。 母も、僕もあの頃からなにも変わっていない。 ふと、思い出したように、母が口を開いた。
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