キミの背中に、手を伸ばす。

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「わけ、わかんねぇ」  土岐ぃ。 「なんで? なんもわかんねぇよ、俺」  お前のこと、何ひとつ理解できない。 「だからかな。足が動かない。ステージに近づけねぇよ」  いつでも、お前の傍に近づきたい俺なのに。  地面に足が縫い止められたみたいに、一歩も動けない。  ただ、ステージ上で宮さまと並び立つ土岐の、すらりと姿勢の良い姿を食い入るように見つめるだけ。 「それにしても、かっけーなぁ」  プルシアンブルーで合ってんのかな、上着の色。紺青色の生地に白のライン、金モールの軍服。 「めちゃ似合ってるわ」  さすが、俺の土岐だぜ。 「……ふっ。何が、『俺の』だよ。図々しいな、全く。俺、マジ馬鹿」  LINEも既読スルーされる程度の扱われようなのに。  自嘲の笑みで、口元がひどく歪んだ。 「――投票結果が出ましたー! 優勝は、バスケ部の軍服パラダイスーっ! 二位に100票以上の差をつけての圧勝です! さぁ、花宮くん、土岐くん! ステージ中央へどうぞーっ!」 「……優勝、おめでとさん」  くるりと振り返り、ステージに背を向ける。おかしなことに、土岐に背を向けて歩き出すためになら、足はサクサクと動いた。近づくことはできなかったくせに。  逃げるように顔を背けたのには、理由がある。  短いインタビューを終え、ステージからおりた土岐の傍に駆け寄る、白藤ちゃんの姿をみとめたから。  そのまま、ふたりで人波の中に消えていくのを最後まで見ていられなかったんだよ、俺……。
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