キミの背中に、手を伸ばす。

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 でさ、でさ! おまけに、ペットボトルの水滴がまだ残ってる部分を指の腹ですりすりと撫でられてるんだけど? これも、なんでだあぁっ? 「と、土岐っ? あの、あのっ……」 「あぁ……この辺、シャツも濡れてる。悪かったな。少しだけ驚かせてやろうって思っただけなんだ。けど、思ってたよりも水滴の量が多かったみたいだ――――ほら」 「……んっ」  『ほら』と言う声とともに、鎖骨から耳の下までを濡れた指でなぞり上げられ、また変な声が漏れ出た。うおーっ、やべぇ! 今度こそ、どん引きされる!  恐る恐る様子を窺うと、俺を見てる土岐と視線がぶつかった。 「あ……」  何だろ、この表情。こんな土岐、初めて見る。  疑問はまだある。眼鏡の奥で揺らめいてる土岐の瞳。僅かに目を細めた目元の印象が、いつもとは違う気がする。  俺の好きな深い黒瞳に、何とも言えない“色”が浮かんでるように感じるんだ。  なぜかなぁ。なんで俺、そんなことがわかるんだろ。  キャンプファイヤーを堪能するために、部室の照明はつけてない。  グラウンドを照らす炎と、中庭のライトの光がぼんやりと射し込んできてるだけの部屋なのに。なんで俺、土岐の瞳の“色”なんて、視えてんだろ?
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