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昏い黒瞳が、俺を真っ直ぐに射抜いてくる。絡め取るように。
えーと、今、なんて言われたんだっけ?
『ただ黙って、一度、頷くだけでいい』
頷く? そんなの、簡単だ。『うん』って首を縦に振ればいいんだろ? でも、なんで?
『俺に褒美、くれるだろ?』
褒美? 褒美って、あれだよな。飲み物のこと……ん? 違った?
あれ? 何だったっけ。そういえば、具体的なことは聞いてなかったかもしんない。
土岐が望む、褒美。俺の好きなヤツが、欲しがってる物。
うん、いいよ。なんか、この体勢の理由とか、色々とわかんないことはあるけどさ。お前が『欲しい』と思ってる物があるなら……何でも、あげる。
結論は出た。だから、こくんっと頷いていた。土岐の目を見ながら。
「ん、いい子だ」
その途端、絡め捕られたまま外せない視線の先で黒瞳が妖しく煌めき、細められた。
俺の上唇をなぞっていた親指が下に滑り、曲げた人差し指とともに今度は顎に添えられる。
ん? なんか……近い、よ?
土岐の顔がさ、近づいてきてんだよ。
うわわわっ、マジ近いって! なっ、なんなんだよ。どうなってんのっ?
混乱したまま、ぎゅっと目を瞑った。
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