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「……おい。この手、離せ」
え?
「わっ、うわわわっ! ごめんっ!」
土岐の声に、ぎゅっと固く瞑っていた目を開け、その途端に見えた俺の手の位置にびっくり。謝りながら、慌ててその手を引っ込める――――土岐の顎から。
俺、あまりにテンパりすぎたせいか、無意識に土岐の顎を掴んでグイッと上に持ち上げてたみたいだ。
「ほんと、ごめんっ!」
俺っ、何してんだ?
てかさ。てかてか! かすった。かすったんだよ!
唇! 土岐の唇が、俺の唇に!
こう、ふわっと乗ってきて! そんで俺、わけわかんなくなってっ、気づいたら今の状態だったんだと思う。
「ほんと、ごめん。でで、でも今っ……く、口っ……唇がっ」
「お前、さっき頷いたろ? なのに、なぜ逃げる?」
「へっ?」
「俺への褒美をくれるんじゃなかったのか?」
わわっ、近っ! ま、またまた土岐の顔が近いっ!
「え、あの……と、土岐っ?」
「頷いたなら、逃げるな」
再びの超接近に、土岐の肩を押し返そうとしてた俺の両手が掴まれた。そのまま下にぐっと引かれ、身体が密着する。
土岐の眼鏡のフレームが、頬に軽く触れた。
「逃げずに、俺のものでいろよ――――慎吾」
「……っ」
俺の名が、呼ばれた。
触れ合わせた唇の上で。
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