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「武田?」
あー、ほら、その証拠に唇が離れた。キスの後とはとても思えない、普段通りの無表情で。
おまけに、呼び方が『武田』に戻ったよ。やっぱりな。
何が『やっぱり』なのか、今ひとつ自分でもわかってねぇけど。
それに、土岐の『褒美』発言も、『俺のもの』の意味も、わかんねぇ。
このキスの理由も、からかわれてんのかとか、そんなの、何もかもが全っ然、わっかんねぇけどさ。
この夢のような甘い感触と時間が、そろそろ終わりを迎えるってことだけは、はっきりとわかってん……。
「口、開けろ」
……へ?
「もっと、力抜けよ」
「……っ……ぅぁ、ぁっ……」
かろうじて、叫び声だけは飲み込んだ。
けど、両手を伸ばして、土岐のことを突き飛ばしてた。
二、三歩、後ろに下がった土岐が驚いた顔で俺を見てくるけど、『ごめん』って謝る余裕なんてない。全然、ないっ。
突き飛ばした手をのろのろと口元にもってきて、黙って見返すのが、精いっぱいだ。
だって! だってさ! また、唇が合わさったんだ。なぜか!
そんで、閉じてた俺の唇をノックするみたいに、あったかくて濡れたモノが唇に乗ってきたんだよ。
そのまま、スルッて! スルッてさ! びっくりして開けた口ん中に、それがちょっとだけ入ってきたんだってば!
あれ、舌じゃね? 舌だよなっ?
でも、なんで? なんで、土岐が舌、入れてくんの?
まさかだけど、俺をからかうために、ここまでする?
わけ、わかんねぇーっ!
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