第1章

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最も恐れなければならないそれが近づいてきた。 光の強さと音でわかる。 脇道から曲がって、こちらに道へ、そしてエンジンの回転数が上がる音。 向こうはこちらが見えておらず、真ん中を走ってくる。 右も左も、ここで終わりだと言わんばかりの塀があり身をかわすスペースはない。 迫る光と音を片方の耳に感じながら、塀へと走った。 跳躍し塀に手をかけ、後は全力で体を引き上げる。 足をかけ、塀の向こうへ転がり落ちた。 ・・・両手を擦りむいだらしい。 ちくちくとした感覚が手の平から伝わってくる。 なんとかなったようだ。 見えなくなるというのはどこまで不便なのだと頭が痛くなりかけた私の目に飛び込んできたのは、民家には見えない洋風の大きな建物、よく手入れされた芝生、そして白装束の男だった。 男は何かに驚いた様子で、ライトを振って辺りを確認している。 どうしたのだろうか、何か困ったことでもあったのか。 私は男に「どうかされましたか?」と声をかけてみた。 男は心臓が止まったかのように体を震わせると、手を合わせ膝をつき、こう呟いたのだ。 「神よ、貴方の声が聞こえます」 青い空にいくらかの雲が流れている。 厳かな建物の中で、白装束の集団が祈りを捧げている。 白装束の一人が祭壇の前に立つ。 「神よ、そこにおられるのですか」 「おりますよ」 応えたのは私だ。 ある人は驚き、ある人は涙し、またある人は畏(おそ)れの声を漏らした。 白装束は、供物だといって葡萄や林檎など果物を祭壇に供えた。 思えばお腹が空いている。 林檎を一つ手に取り、かじってみる。 うまい。 祈りを捧げる集団の、ざわめきが一層大きくなった。 神よ神よという声が様々な感情を伴って建物内に響いた。 ああ、なるほど。 神さまは透明人間だったんだな。
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