濁りのない、無。

2/5
前へ
/5ページ
次へ
西暦1800年代。 病院でのレントゲン撮影がまだ始まったばかりの頃。 看護師の私が勤める病院で、その日はやってきた。 「先生!」 声を張り上げて呼ぶ。 先生はゆっくりと振り返った。 「どうした?そんなに慌てて。何か難病でも見つかったか?」 「それが…ないんです!」 「は?それなら良かったじゃな…」 「違うんです!臓器が…レントゲンに臓器がひとつ映ってないんです!」 その病気は突然見つかった。 『突発性臓器消失症』。 「おかしい…。何がおかしいって特に異常がないからおかしいんだ」 先生はうろたえた。 「臓器がないっていうのに、血液も体重も正常の人間と変わらないんですよね」 「まるで、そこにあるかのように。見えていないだけで、確かにそこにあって動いているように」 「見えない…臓器?」 その病気は医師たちの間で… 別名『透明な臓器』と呼ばれた。 その病気は治す方法も防ぐ方法も不明であり、人々は不安になった。 だが、少し不安になるだけでそれほど恐れる者はいなかった。 だって、健康だから。 臓器を失っても変わらずに過ごせていたから。 臓器をひとつ失うこの奇妙な病気は、急速に増加し続けた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加