濁りのない、無。

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医師たちは不思議に思いながらも、原因の究明を急ごうとはしない。 特に命に別状はないから。 困る人が多いわけでもなかったので、別の病気の研究を優先し『透明な臓器』は後回しにされた。 それでも、私が勤めるこの病院では『透明な臓器』の追究をやめようとはしなかった。 先生は、資料を片手に問いかける。 「臓器以外の全身が透明な生物を知っているか?」 「全身…?」 「海や水辺によくいるらしい。魚や甲殻類…ナマコまで。目撃情報が多々ある」 「そんな生き物…見たことありません」 「珍種だからな。そこでその情報を聞き付けたある医師が、それらの生き物を大金で買い集め、様々な生き物と生殖させてみたらしい」 「様々な…生き物?」 「正常な別種の生き物だったり、透明な生き物同士だったり…とにかく、強引で。自然繁殖ではない…えげつない研究をしていたらしい」 「そんなに貴重な生物を…ずいぶん手荒く扱ったものですね」 「彼の野望だったんだろうね。どの生物も透明な遺伝子を持つことができれば、解剖しなくても中が見える面白い生き物ができる…って」 「遺伝…?じゃあこの病気が広まった原因はその医師が…いや、まだわからない誰かが仕組んだ実験なんでしょうか?」
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