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私と大君の初めてのデートは、水族館だった。
高校に入って直ぐに出来た彼氏は、隣のクラスのサッカーの上手な人気者で、爽やかさが際立つ背の高い男の子だった。
何の気の迷いか私を好きだと大君は告白した。一日悩んでいいよと返事をし、次の日の朝早くに、日曜日にデートをしようと水族館のチケットを渡されたのだ。
男の子とこんな風に出かけたことも無ければ、付き合ったことも無い。大君が私の初めての彼氏だった。
床も壁も全面分厚いガラスで覆われた巨大水槽の中で、私達は立ち竦んでいた。足元には小さい黄色い魚が岩陰に隠れて泳いでいる。目の前には大きなエイが白いお腹を惜しげもなく見せ、まるで飛んでいるように通り過ぎる。鰯の大群はグルグルと円を描き同じところをひたすら回っている。
暫くの沈黙の後に大君はいった。
「泳いだら気持ちよさそう。」
その時、私は大君に恋をしたんだと思う。
目の前にいる男の子がキラキラして見えた。私も大君と同じことを思っていたんだ。
二人の間にある、目に見えない垣根がスーッと水の中に解けて消えていったみたいだった。大君の心が私に寄り添ってくる。私は、それを心地よく思った。
「手、繋いでみる?」
少し照れた大君が恥ずかしそうに手を差し伸べてきても、私は顔を真っ赤にするだけで、あなたの長い指に自分のを重ねることなんてできなかった。いくら寄り添う距離が心地よく思えても、どう受け入れていいのか分からなかったのだ。
大君は「蛸みたい。」と苦笑って、引っ込みが付かなくなった手を自分のポケットの中に入れた。
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