第2回恋愛:「Blue fish」

4/4
前へ
/25ページ
次へ
 大君と最後にここに来たのは、付き合って3年目に入ろうとした時だった。歯車が狂いだしたことに、気付かない振りをするのは限界だったんだ。私と大君は、最後の場所にここを選んだ。  少しの望みを掛けたのかもしれない。もう一度二人で泳くことができれば、元に戻れるかもしれないと。  私と大君の間には常に人ひとり分隙間があいていて、その隙間が埋まることはない。大君に恋をした場所に行ってもそれは同じだった。    大君は言ったんだ。人ひとり分距離を置いて「別れよう。」って。    大きな水槽には変わらずに魚たちは泳いでいるのに、大君はもう泳がなかった。  もう二人で泳ぐことは出来ないんだと、悟った。  私は、大君が去っても動けないでいる。何もしなくても涙って出てくるんだ。大君と心が寄り添ったこの場所で、二人の思い出が次々と溢れてくる。たとえあなたの手を握れなくても心が寄り添っていた。あなたの胸の中に入りながらも、水の中で自由に泳いでいた。  しょっぱい涙がポタポタ足元に落ちる。透明のガラスはそれを隠して分からなくしていた。一粒一粒余すことなく吸収して、冷たい海水に溶け込ませているみたいだ。  涙の落ちたガラスの下に、一匹の小さな青い魚が泳いでいた。 《END》
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加