第1章

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 このストーブを倒せば家を燃やせる。  鳥籠のような円筒形の柵に囲われたその中で、ごうごうと輪になって盛る炎を見てカナ思った。  鉄板のように焼けた平らなてっぺんに置かれたヤカンが湯の暴れるのを身をもって抑えている。その度に鳴る乾いた断続音がカナの心に構えられた銃の引き金をいちいち煽った。  黄色い炎。  黄色い光。  母が停電のときにも使えるからと言って電源は乾電池式になっているため、倒すには素手や素足をぶつけなくてはならない。コードがあればあっと言う間に転ばせられるストーブも、いまは灼熱をその黒い表面に宿して外敵を退いている。  だけどカナはどうしてもそれが倒したかった。そうして母もろとも心中してしまいたい気持ちが荒波のように押し寄せていた。目を閉じるとそれまでの記憶がまざまざと思いだされ、カナは横たわったまま小さく涙を流した。
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