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経済的困窮の上に父の勤めていた会社が崩落してきたのはまだカナが幼稚園年長の頃だった。それ以来、辛うじて均衡の保たれていた母と父の関係は悪化し、父は残り僅かな金に手をだし酒に溺れ、母にも暴力を振るった。母はストレスのあまり、まだ幼いカナをその捌け口とした。カナが小学生に上がると母からの暴力は鎮まったものの、代わりに言葉でいたぶった。
やがて父と母は離婚した。カナは母についていった。父は母がいなくなれば必ずその娘を代理に立てるとカナは知っていた。何よりあれだけ毒の掃き溜めにしてはずの娘を母が欲していた。
それから十年が過ぎてカナは定時制の高校に入学した。将来に期待はしていなかった。金がないから、だけど高校は出なさい、それだけで職の幅が雲泥の差だから、という母は、毎日夜遅くまで非正規の仕事に勤めている。カナは素直にその言葉に従い、気が付くと数少ない中学生の友人たちとはまったく異なる方向に進路が決まっていた。
我が子の将来を案じながらも、母の口から棘が注がれることは相変わらずであった。カナはそれをジッと耐えていた。一度だけ先生でも警察でも誰でもいいからとにかく助けを求めようとした。しかしそうすると今度は母がどうされるのだろうという不安が先に立って、動くことができなかった。突飛に言動の荒ぶる母だが、そうでないときには料理も世話もしてくれる。
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