第1章 そらを飛ぶモノ

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僕がそれを見たのはただの偶然だった。偶然、家族旅行で訪れた海上公園で、偶然にも崖の上に腰かけていたのだ。 「あら、天使がこんなところに降りてくるなんてめずらしいわね」 それを見た母さんがほのぼのと言う。 「そうだ、どうせなら写真を撮りましょう」 と鞄を漁り始める母さん。その間に天使はふわりと浮かび上がり--飛び去ってしまった。純白の羽が揺れ、栗色の髪が風になびく。 「あら、行っちゃった………」 ようやく鞄からカメラを探し出した母さんが残念そうに呟く。それに対して僕はずっと、その天使を目で追いかけ続けた。空の彼方まで、その姿が消えてもずっと。そこにあったのは、純粋なまでの憧れ。それを自由に飛べる、それに対する妄執へと取りつかれた、瞬間だった。
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