第五章 狙われた童貞

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 晃司が深いため息を吐き、肩を落とす。 「だからってお前……俺の気持ちは? お前はいつもそうやって、俺の気持ちを無視するんだよな……」  愛しい人を悲しませている。しかしそれでも、大輔は譲れなかった。 「ごめんなさい、晃司さん、でも俺…………こ、晃司さん?!」  晃司の背後に突如壁が現れ、大輔はギョッと目を剥いた。それは荒間署刑事課の壁――颯太郎より一回りも巨大な壁だった。  晃司が気配を察して後ろを振り返る。が、遅かった。壁から手が生え、晃司を背後から羽交い絞めにした。 (ひ、ヒグマ?!)  本州の真ん中にいるというのに、そんな馬鹿な話が頭をよぎった。 「……お久しぶりです、小野寺さん」  ヒグマが喋りだし、大輔はさらに混乱した。晃司が暴れて、自分を捕まえる熊男をなんとか振り返る。 「久しぶりって……?! お、お前! 出てきてたのかよ!」 「はい、親父より先に。今は槙村の叔父貴預かりになってます。……小野寺さん、静かにしてください」 「テメェ! 離せよ!」  晃司と熊のような大男は知り合いのようで、少し安心した。しかも熊は晃司を捕まえてはいるが、乱暴さはなく、晃司に危害を加える気はないようだった。  熊男が晃司を羽交い絞めにしたまま、大輔を見る。 「……堂本さんですね?」 「は、はい?」 「今のうちに店へどうぞ。叔父貴がお待ちです」 「大輔! 行くな! ……離せって言ってんだろ!」  どうぞどうぞ、と熊男に促され、大輔は不安な気持ちを抱えながらもビルに入った。熊男はきっと、晃司を傷つけないという己の勘を信じて。  背後から、大輔~! と、断末魔のような晃司の叫びが響く。  それにも振り返ることはせず、エレベーターに乗り込みピーチバナナの入る五階に向かう。  五階に着いて、大輔はすぐに異変に気づいた。  狭いエレベーターホールと、そこからすぐの小さな受付に、どう見てもカタギでない男が一人ずつ立っている。しかも、相当腕っ節の強そうな男たちだ。
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