233人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ
晃司が深いため息を吐き、肩を落とす。
「だからってお前……俺の気持ちは? お前はいつもそうやって、俺の気持ちを無視するんだよな……」
愛しい人を悲しませている。しかしそれでも、大輔は譲れなかった。
「ごめんなさい、晃司さん、でも俺…………こ、晃司さん?!」
晃司の背後に突如壁が現れ、大輔はギョッと目を剥いた。それは荒間署刑事課の壁――颯太郎より一回りも巨大な壁だった。
晃司が気配を察して後ろを振り返る。が、遅かった。壁から手が生え、晃司を背後から羽交い絞めにした。
(ひ、ヒグマ?!)
本州の真ん中にいるというのに、そんな馬鹿な話が頭をよぎった。
「……お久しぶりです、小野寺さん」
ヒグマが喋りだし、大輔はさらに混乱した。晃司が暴れて、自分を捕まえる熊男をなんとか振り返る。
「久しぶりって……?! お、お前! 出てきてたのかよ!」
「はい、親父より先に。今は槙村の叔父貴預かりになってます。……小野寺さん、静かにしてください」
「テメェ! 離せよ!」
晃司と熊のような大男は知り合いのようで、少し安心した。しかも熊は晃司を捕まえてはいるが、乱暴さはなく、晃司に危害を加える気はないようだった。
熊男が晃司を羽交い絞めにしたまま、大輔を見る。
「……堂本さんですね?」
「は、はい?」
「今のうちに店へどうぞ。叔父貴がお待ちです」
「大輔! 行くな! ……離せって言ってんだろ!」
どうぞどうぞ、と熊男に促され、大輔は不安な気持ちを抱えながらもビルに入った。熊男はきっと、晃司を傷つけないという己の勘を信じて。
背後から、大輔~! と、断末魔のような晃司の叫びが響く。
それにも振り返ることはせず、エレベーターに乗り込みピーチバナナの入る五階に向かう。
五階に着いて、大輔はすぐに異変に気づいた。
狭いエレベーターホールと、そこからすぐの小さな受付に、どう見てもカタギでない男が一人ずつ立っている。しかも、相当腕っ節の強そうな男たちだ。
最初のコメントを投稿しよう!