一章   玉姫の森

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「ほら見て、おにいちゃん。あそこにも誰かいるよ。さっきの人かなぁ? ほらね、こっちを見てるでしょう」 「・・・どこ? どこにいるの?」   石段を上りきったばかりの二人は、顔を寄せ合い小声で話している。 「あそこだよ。あの鳥居の左にある石灯籠(いしどうろう)の陰。ほら、顔が半分だけ見えてるでしょう?」    天龍玉姫神社(てんりゅうたまひめじんじゃ)。村外れの石段を長々と上ってくると、山の頂上に出る。そこには見上げるような縦長の自然石が、土から生えているかのような姿で、ニョキニョキと幾つも立っていた。岩山の頂上だ。そしてその周囲には欅(けやき)や楢(なら)の大木が境内を囲むように立っていて、赤い鳥居の両側に、左右対称の様な姿で並んでいるとりわけ太い二本の欅には、これまた特別太い注連縄(しめなわ)が巻かれている。御神木だ。そしてその大木の枝同士が上空で大きく交錯していて、その木陰だけで頂上の半分近くが隠されていた。   鳥居を潜った両側には、透かし彫りの立派な石灯籠が立っているが、その足元に這い上がっている苔で下の方は緑色に染まっている。そしてその先には、大岩を直接くり貫いて造られた祠(ほこら)があり、そのすぐ後ろは、バッサリと鉈なたで割ったような断崖になっていた。   参道の入り口から頂上までの道のりは、草木のトンネルを潜るように山を巡る石段が続き、結構長い。一心に上り詰めると息が切れる。またその石段の途中にも、小さな石碑が二つ三つと草むらの中に埋もれているのに気が付く。何かの記念碑だろうか。 
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