一章   玉姫の森

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 想い出話しに祖母が続く。二人はニコニコしながら光一と遼一を見やっている。 「そうなの? おにいちゃんって蝉捕り名人なの? 今までそんなこと言わなかったじゃない、どうして? それじゃ明日行こうね。僕に捕り方教えてね。あ、網が無いんだった。こっちに来てから買うつもりだったから。おばぁちゃん、この近くに網売ってる店ある?」 「こごの村にはそげな店はねえよ。それに、光一には網なんぞいらねぇんだ。んだがら名人なんだよ。なぁ、光一」 「えー 蝉を捕るのに網がいらないってどういう事? どうやって捕るのさ? ねぇ、おにいちゃん、どうやって捕るの?」 「へへ、さぁ、どうやって捕るかなぁ。それは明日のお楽しみだな。でもずいぶんやってないからなぁ、うまくいくかどうか分からないぞ」   村へ来てから二日目の朝。わざわざ遠くまで行かなくても、蝉など庭先で何匹でも捕れた。この村の朝は、喧しいほどの蝉の声で始まるようなものだった。   玄関の少し先に配置されている三つの大岩は、その周りを玉砂利で大きく縁取られ、これも下の方は苔むしている。それ以外の場所は広々と花壇になっていた。地を這うように群れて咲く花や、ひょろりと背の高い花。そして赤や黄色、桃色など、幾種類もの花模様が入り乱れて夏も盛りだ。そしてそれらを取り巻くように、太い庭木が何本も立ち並び、さらに緩やかに下りながら森の先へと続いている。何処までが庭で森なのか、区別はないように見える。   家を取り巻く背の高い木々は朝晩は木陰を作って涼しいが、日中は真上からの太陽が暑い。そしてこの村の家の敷地は、どこもそのような形になっているようだ。いかにも、大きな森の中に溶け込むように村がある。   蝉捕り名人の技はなかなか鮮やかなものだった。蝉が止まっている木の裏側からそっと近づき、ゆっくりと回り込む。蝉の姿が掠かするように見えたところで狙いを定め、サッと、一瞬の早業で捕まえる。手づかみの技だった。
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