第一章――――「赤い髪の、変なやつ」

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 ――良い場所を見つけた。  肩までかかる金髪と、セーラー服のカラーとを風になびかせながら、亀井十香(かめいとおか)は校舎の屋上で一人ほくそ笑む。ここなら誰かが来る心配もないし、思う存分ゆっくりできそうだ。  十香はいつも、昼休みに入ってすぐに教室を出て購買へ向かい、食べ物と飲み物を買う。その後向かうのは、三階の屋上そばの階段である。十香はいつもそこで昼食を済ませることにしていた。屋上へ出る扉には鍵がかかっていて、生徒は無断で屋上へ行くことはできない。そのため、普段からその階段に人が近づくことは殆どないのだ。だから、十香がその扉のノブに鍵が差さったままであるのを見つけたのは、偶然であり、また必然であるとも言えた。  扉を開け屋上へ出て、周囲を見渡してみた。静かなもので、十香の他に人影はない。おそらく鍵は、整備点検か何かの折に係員が忘れていった……というところだろう。鍵をスカートのポケットにしまい込む。勤勉実直な生徒であれば、ここは素直に職員室に鍵を届けにいくところなのだろうが、十香はもう完全にくすねるつもりでいた。  九月半ばのよく晴れた日である。やや残暑はあるものの、風があって心地よい。にわかに気持ちが高揚してくる。この屋上という空間が、自分だけのものになったかのような気がした。十香は入ってきた扉がある屋上塔の側面に回ると、取り付けられた梯子からその更に上まで登った。
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