エピローグ――――「赤い髪の、あたしの……」

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 ビルの入り口近くに、十香と伸司は並んで立っている。  薔薇乃が帰った後、伸司が車で家まで送ってくれると言うので、せっかくだから厚意に甘えることにした。美夜子も一緒に車に乗る予定だが、トイレに行っていて遅れている。 「おい、寒くないか?」  伸司が十香へ向けて言う。 「ん、へーき」 「聞いたよ。美夜子のこと、守ってくれたらしいな。俺からも礼を言わせてくれ、ありがとう」 「いや、守ったってほどでもねぇけどさ……無我夢中だっただけだよ」  結局は織江が来てくれたから助かったのだ。礼を言われるほどのことをしたつもりはない。 「それにしても、よかったのかよ? せっかく大金せしめるチャンスだったのに」  伸司が言う。先ほど薔薇乃から持ちかけられた慰謝料の話だろう。 「いいんだよ。あたしには、身分不相応ってやつだ」 「なるほど。まぁ、俺もあれでよかったと思う」伸司はそこで少し間を置いて、「……なんだかんだで、今回一番得をしたのは岸上だったな」 「ん? ……そうか?」 「ああ、結果を見てみろよ。身内の、それも一番自分に近いところにいたやつが反乱を起こしたっていうのに、岸上はそれをあり得ないほど穏便な形で収めてしまった。その騒動の中でナイツに敵対する組織、ブルーガイストは壊滅したし、翠鷲も先遣隊のアジトを潰されて大きな痛手を負った。この街でのナイツ――ひいては岸上薔薇乃の力は、より盤石に……というより、前とは比べものにならないほど強力になったと言っていいだろう。今この街にはナイツの支部が二つ存在するが、そのうち東支部が西支部を飲み込んで、岸上がこの街全体の支配者になるのは、そう遠い話じゃないかもしれん」 「ふーん……それってさ、どうなの? いいこと? わるいこと?」 「一概には言えない。強力な支配者ってのは、簡単に言ってしまえば恐怖そのものだ。上手くやれば今回のブルーガイストや翠鷲みたいなハネた連中をその恐怖で抑え込むこともできるだろう。そうすりゃ、この街の治安もいくらかマシになるかもしれないな。もちろん、下手を打てば悪化する可能性もある。結局は、大きな力がなにをもたらすかってのは、それを持つ者次第ってことさ」  岸上薔薇乃は、どちらの結果をもたらすのだろうか。
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