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「ま、お前さんが気にするような話じゃないよ。お前さんのような学生が気にかけておくべきなのは、ずばり、テストの成績、そして恋。これだ」
伸司はおどけて言う。十香は「はいはい」と適当に相づちを打った。
十香は左頬に貼られたガーゼを手で触って、
「あーあ、それにしても……この怪我、親父になんて説明しようかな……ぜってー色々聞かれるわ」
「ダチを守るために闘った――とか言っとけよ。かっこいいぜ」
「へっ、趣味じゃねーや」
そう言いつつも、十香は笑う。
昨日と今日、あまりにも沢山のことがありすぎて――身体は疲れ果てているはずなのに、心は晴れやかだった。遭遇した全てが、十香にとって未知のもので、美夜子との出会いもまた、その一つだ。怖い思いも沢山したが、今回のことを通して得たものは、きっとかけがえのないものだったと思う。
「……あたしさ、今回のことで思ったよ」
「ん?」
「人生って、想像以上だなって」
「人生は想像以上、か。ははっ、そりゃあいい!」
伸司は愉快そうに笑った。
「楽しくなりそうか? これから」
十香も小さく笑ってから、
「……ま、少しはね」
十香はふと思い出して、付け足すように言う。
「あ、そうだ。犬、預かってくれてありがとな。預かり料、払うよ。えっと……いくらだったっけ?」
「いいよ」
「え?」
「契約書は書いてねぇし、いくらの約束だったかも忘れちまった。サービスしてやるさ。俺は子どもには優しいんだ」
十香はむっとして、
「子どもで悪かったな」
「言い直そう。俺は子どもと、レディには優しい」
「ははっ……あんた、実はかなりお人好しだよな。美夜子のやつが懐くのも、わかる気がするわ」
「お人好しじゃあない。紳士的と言え」
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