エピローグ――――「赤い髪の、あたしの……」

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 伸司はコートのポケットから煙草を取りだして、吸い始める。十香は手を差し出して、 「一本ちょーだい」 「だーめーだ」 「ちぇ、ケチ」 「そーいう問題じゃない」  伸司は煙を吐き出すと、やや改まった口調で言う。 「……今言ったサービスの代わり……ってわけでもないんだが、一つ、お前に頼みたいことがあってな」 「へぇ、あたしに? なによ?」 「美夜子のことだ。あいつ、ああいう性格だろ。学校ではちょっと浮いちまってるみたいでな」  ……え? 「きっと、お前みたいに仲良くなれたやつは、初めてだったと思うんだ」  ……そうだったのか? あたしはてっきり、あいつには友達なんてたくさんいるんだろうって思ってた……。  思い返してみれば、ヒントはあったのかもしれない。  最初に――厳密には二度目だけど――あいつと会った屋上のことだ。あいつは、なんであんな場所にいたんだ? 扉が開いていたから気になった――なんてことを言っていたが、それはつまり、昼休みに一人で学校の中を歩き回っていたということだ。しかも、普段誰も寄りつかない屋上への階段のあたりを。もしかしたらあいつは、教室に居場所がなくて、あたしと同じように、安心して一人で過ごせる場所を探していたのかもしれない。それで、屋上に来た……。  ……なんてこった。あたし……今まで自分のことばっかで、人のことなんて全然考えてなかったんだ。そうか、あいつは……。
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