第一章――――「赤い髪の、変なやつ」

3/38
199人が本棚に入れています
本棚に追加
/211ページ
「ひゅう! こりゃいいや」  思わず独り言が漏れる。この学校で最も高い場所なだけあって、眺めは壮観だ。学校の敷地を越えて、夕桜の町並みが見下ろせるようになっていた。屋上塔の屋根部はそれなりに広い平らなスペースになっていて、中央辺りに給水タンクが置かれている。十香は景色を見下ろせるように縁の近くに座ると、購買で買ったコロッケパンの袋を開けた。  いつもの階段だと、近くに教室があるからいくらか騒がしいこともあるのだが、ここは静かで落ち着けていい。頬張ったパンをジュースで胃へと流し込みながら、そんなことを思う。  ――去年の春に高校へ入って以来、十香にとって昼休みとは一人きりで過ごすものだった。一緒に昼食をとる友達なんていないし、教室も学食の食堂も、居心地が悪い。別にそれが寂しいなどとは思わない。ただ、周囲から好奇の目に晒されるのは嫌だった。それも自意識過剰なのだろうとは思いつつも、どうしても輪に馴染むということができない。中学の頃まではこうではなかった。それまでは普通にできていたことができなくなってしまったのは、いつの頃からだっただろうか。  十香は手早く食事を済ませると、スカートのポケットから旧マイルドセブンこと、メビウスの紙箱と百円ライターを取りだして、食後の一服を始めた。もちろん、喫煙がバレたら停学は必至であるから、いつもは人があまり来ないトイレなどでひっそりとやるしかないのだが、こういう場所なら他人の目を気にしなくていいから気楽なものだ。  一本吸い終わって、吸い殻を筒型の携帯灰皿に押し込むと、十香はあくびを一つついた。 「……ねみぃ」  いつもなら携帯でも弄って時間を潰すところなのだが、気持ちの良い場所に出てきたせいか、少し眠気を催してしまった。その場に仰向けに寝そべると、目の前に空があって、自分の身体がふわふわと宙に浮いたような奇妙な心地がした。固い床にそのまま寝ると後頭部が痛いので、下で手を組んで枕代わりとする。風の音を聞きながら目を閉じた。  ゆっくり呼吸すると、澄んだ空気が肺を満たしていく。ああ、良い感じだ。この調子なら数分もしないうちに眠りに落ちることができそうだ――そう思ったときだった。
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!