第1章

9/9
前へ
/9ページ
次へ
そうなのかもしれないと俺は思う。きっと透明人間も人間だからこの暑さに参っているに違いないだろう。だから、見た目だけで涼しいとかきっと思っちゃいけない。この話はそう言う結論で締めくくっておこう。けして、薬が無駄になっただのなんだのを考えてはいけない。何故なら、とてつもなく虚しくなるからだ。 「よし、帰るか」 「さんせーい」 改めて帰ろうという提案に賛成の声が来たので、てきぱきと変える準備をする。扇風機のスイッチを切り、窓を閉めて荷物をまとめた。すると、その頃には忍も復活していたまた謎の踊りを踊り始めている。ある意味で尊敬するほどのタフさだ。あの薬をどのくらいの時間をかけて作ったか俺は知らないが、それでも懸命に作ったことは予想できる。なのに、それを一瞬でくだらないことに使い切られても、忍は怒らなかった。それを少しだけすごいと俺は感じた。 「机はこのまま?」 「どうせ俺たち以外来ないから、良いだろ」 「それもそうだね」 透明になった机を指差して秀二が言う。それに問題ないと返せば秀二は納得した。戦闘を切って俺が教室を出れば皆がそれに続く。けれど、廊下に出ても夏の暑さは変わらなかった。 「帰りコンビに寄ろうぜ。アイス奢れよ、忍」 「む? なぜオレが食べたとわかった?」 「お前以外にいないだろ。アイス一度に二本も食べるやつは」 コンビニによってアイスを奢らせるためにそう言うと、忍が不思議そうな顔をする。それにわかりきったことだろと返しながら、昇降口へ急ぐ。急ぐ途中で、ふと透明人間がもしいるとするなら、この会話を聞いて笑っているかもしれないなと思ったが、そんなわけないかとすぐに思い直す。涼しい世界へ急いで向かう俺たちを無視してセミが忙しく鳴いている。夏はまだまだ暑くなりそうだった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加